高校を卒業し社会人3年目の夏。
久しぶりにいきつけの居酒屋のカウンターでビールを喉奥に流し込む。
居酒屋八海(はっかい)カウンター席のみで10人程しか入れない昔ながらの小さな居酒屋。
古臭いし、お世辞にも綺麗とは言えない店だがなかなか雰囲気のあるお気に入りの店である
俺達の住む街は北国だが、夏場のビールはやはり旨い。
俺の隣にはどう見ても未成年に見えるチビが同じようにビールを飲んでる。
いつの間にやら髪もロングになり、一丁前に化粧までして色気づきやがって・・・
その姿はもはや見慣れた光景だが、ついついイジってしまう
「相変わらず加奈子がビールって似合わねーなー。お子ちゃま・・・」
と言いかけたところで、加奈子がジョッキを『ドンッ!』ってテーブルに置き、俺の方に向き直し、スネの辺りに蹴りを入れながら、
「ウッサイ!佑介!アタシは子供じゃなーい!!それに『子』ってつけるな!アタシはカーナー!」
『フンッ!』と不貞腐れながらマスターにビールを頼んでる
そう、加奈子は本名は加奈である。
だが昔からチンチクリンでチビっこかったから加奈に子を付けて呼んでいた。
中学時代に付けた呼び方がいまだに定着している。
加奈子との付き合いは中学時代からでもう9年になる。
随分長い付き合いになったもんだなぁと思いながら俺もジョッキの残りを飲み干した
中学時代
俺はサッカー部で部活に一生懸命な体育会系のお調子者。
いっつも友達とバカ騒ぎしてた記憶しかない。
スカートめくりとかもやってたな・・・
でも俺のキャラはやっても許される?ラッキーなキャラだった。
一方、加奈子は陸上部で短距離走の選手だった。
真っ黒に日焼けして、グラウンドを走っていた姿が懐かしい。
髪型はずっとショートカットで目はクリっとして顔はまぁまぁカワイイと思うが、昔っからサバサバというか、ガサツというか・・・
チビだし、胸なんかいつまでたってもペタンコ。
そんなもんだから『女の子』って意識した事なんて皆無だった。
根っから明るい性格だったのもあってか俺とも妙にウマが合って一緒にバカ騒ぎとかしてた。
俺が「お子ちゃま 子供 チビ」と馬鹿にすると加奈子が「ウッセー!」と言って蹴りをくれる。
そ
んなやりとりが大人になった今でも続いている。
あまりに仲がいいので、周りからは『デキてるんじゃねーの?』って疑われた事もあったが、お互い異性として意識した事なんてなかったと思う。
俺には当時好きだった実に女の子らしい女の子もいたし、加奈子とは学校では一緒にいる時間は多かったかもしれないが、放課後一緒に帰るとか休みの日にデートとか、もちろん家が隣同士で二階の窓から入ってくるなんて事はなかった
バレンタインなんかも義理チョコすらくれた事がない・・・
よく『男女の友情は~』みたいのがあるが、俺と加奈子の間に『恋愛』って文字はなく、親友みたいな感じだったと思う。
ただ、加奈子とはこの先もずっと付き合いが続くんだろうなぁとは思っていた。
加奈子とはその後同じ高校に進むが特に二人の関係に進展もなく、加奈子の身体的な成長もなく・・・
相変わらずの関係が続いた。
お互いの恋愛に関してだが、加奈子は全く恋愛に興味が無いというか恋愛がめんどくさいというか高校時代には顔がまぁまぁカワイイのもあってか告白されたりってのもあったが全て断っていた。
ある時理由を聞いてみたが、
「だってめんどくさいじゃん?」の一言で終わった。
俺の方はというと。
好きな子は何人か出来たりしたが付き合えた事はなかった。
そんなこんなでお互い彼氏彼女の出来ないまま卒業を迎え、俺は就職し、加奈子は専門学校を経て幼稚園の先生になった。
二人だけで会うようになったのは高校を卒業してからだが飯食いに行くか、飲みに行くかくらいなもんで月に1、2回会うくらいの関係。
一人暮らしをしていた俺の部屋で飲んだりしてそのまま泊ってく事なんかもあったが一度も男女の関係みたいな事にはならなかった。
俺も若い男でそれなりの性欲とかもあって加奈子の事をそーゆー目で見た事がないと言えば嘘になるかもしれないが二人の今の関係がすごく楽で楽しかったからそっちの方が大事だったと思う。
「ちょっと!佑介!聞いてるの?」
昔の事をボーっと思いだしてた時に加奈子が蹴りを入れながら聞いてくる。
「いてーなー 何だよ?」とスネを撫でながら聞くと、
「やっぱり聞いてなかった!」とプンプンしてる。
「悪かったよ それでなしたんだよ?」
「だからね、今日幼稚園でね園児にね言われたの・・・」
「何て?」
「せんせーはーおとこのせんせー?だっておっぱいない・・・」
そこまで聞いて俺は飲んでたビールを盛大に吹き出した。
おもいっきりツボにハマり腹は痛いし涙はとまらないし・・・
俺がツボから抜け出せずにいるところに、
「笑うなー!!」と再び蹴り・・・
「むぅー」っと唇を尖らせながら、
「アタシだって少しは成長してるんだからね!」と言って、
胸を突き出しながらオッパイありますアピールをしてる加奈子。
Tシャツに浮き出た膨らみをみながら、確かにBカップくらいはあるかもなぁと思いながらも思わず言ってしまった。
「どうせパットだろ・・・」
無言で今度は俺の肩に猛烈にパンチしてくる加奈子。
殴られながらも加奈子とのこんなくだらないやり取りが楽しいなぁと思った。
加奈子もいつもこんな調子でイジられるのに俺との付き合いが変わらないのだから案外加奈子も楽しんでいるのかもしれない。
「もう帰る!!」
加奈子は席を立つと足早に店を出て行った。
流石に言い過ぎたかと思って俺も慌てて勘定をすまし加奈子を追って店をでた。
加奈子に追いつき、
「悪かったよ」といいながら加奈子の頭をクシャクシャって撫でた。
怒った時も大抵これで許してくれる。
それでもまだ「むぅー」ってしてるから、さらにクシャクシャにしながら、
「ヨーシヨシー」ってしてやったら、
「アタシは犬じゃなーい!」と言いながら俺の腕を振りほどく。
今度は犬にするみたいに顎をコチョコチョしてやりながら、
「ほらほらー ワンッって鳴いてみー」とからかうと、加奈子はふと立ち止まり暫くは「むぅー」としてたが、ついに「ワンッワンッ」って鳴き真似をし笑顔に戻った。
「なんでかぁ・・・佑介だとなんか許せちゃうんだよなぁ・・・」
加奈子は再び歩きながらつぶやく。
「それはまぁ当然だよ 俺と加奈子は特別な関係だからね」
「何それ? 特別な関係ってどんな関係?」
加奈子が少しニヤってしながら聞き返す。
「んー・・・」
「ご主人さまとペット?」
俺が蹴りをくらったのは言うまでもない。
続く
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